タイトル:賞味期限日“Best Before Dates”のBestとは? 

 

背景 

「まずはビール」というのは、私たちが京都の地でビール醸造を始めた頃から守り続けているモットーで、生産から販売に至るまでの数々の決断をするときに私たちは何を最優先するかという考えが込められています。2017年に初めてボトルビールの製造を始めた時、まだ十分な経験と情報が揃っていなかったので、3種類の定番ビールには製造から60日の賞味期限を設定しました。その後、製造の回数を重ねるにつれ、充填設備の扱いにも慣れ、品質の変化をみる官能検査を続けた結果、賞味期限を90日に延ばすことができました。 

 

その後、次第にボトルビールの需要が伸びたことでいよいよこれまで使ってきた同時に2本しか詰められない小さな充填機の限界を迎え、より短い時間でたくさんの充填を行うことができる設備への転換を迫られることとなりました。そうした状況をうけ、私たちはかねてから缶容器の利点を考えていたこともあり、ボトルではなく缶への大きな仕様変更をする決断をしました。これは、ただ製造量を増やすということだけでなく、無濾過非殺菌のデリケートなビールの品質を保ちながら、新しい仕様に変えるということで大きな試練だったといえるでしょうさらに、コロナウィルスの影響による市場の急激な変化があり、これまで飲食店への樽販売が中心だったビジネスモデルから小売りを対象とした缶商品へと一気に舵を切ったことで、商品の取り扱い易さ、特に賞味期限の長さに対する強い要求に応える必要が出てきました。それに応えるには缶でいくしかない、という決断でした。 

 

【私たちが取り組んだこと】 

市場の状況やニーズに応えるように商品の賞味期限も合わせる、というのはシンプルで合理的な解決方法なのかもしれません。しかし、「まずはビール」の私たちにとってはそう簡単にいくはずがありません。品質を犠牲にすることは何があってもあってはならないので、私たちはボトルビールから缶に仕様がかわってからも、まず官能検査をつづけました。 

 

そしてボトルビールの賞味期限を決めた時の品質指標を缶でも適用できるかを判断するために、基準値を改めて明確に定めました。溶存酸素(Dissolved Oxygen)の量というのがビールの賞味期限を定める時に最も影響する要素の一つで、ボトルビールと缶それぞれに重点した場合を比較した結果、缶もボトルと同じ90日期限からトライできるとしることができました。 

 

その後、6ヵ月間、10回の定番ビールの仕込みで約50回の官能検査を行い、先述の溶存酸素の検査と合わせることで、製造後の缶内部での変化をより正確に把握できるようになったのです。また、同時にこのデータに基いて、工程を改良することで製造、充填の際に入る溶存酸素量をさらに抑制することができました。 

 

【ここまでやる理由 

理由はいくつかあります。その一つは、賞味期限がより信頼性の高いものであればあるほど、お客様に安心してビールを楽しんでもらえると思うので、私たちが品質に自信をもてる期限を設けたいと考えています。また、このことが重要なのは賞味期限がいつなのかを伝えるだけではなく、いつ製造されたかまで伝えたうえで購入してもらいたいと考えています。 

 

次に、私たちはお客様の声には可能な限り応えていきたいと思っています。ボトルビールを製造し始めた頃、期待して心待ちにしてくれたいた飲食店のお客様でも賞味期限が90日であることを知ると、やはり思っていたように取り扱えないとなっていました。賞味期限を長くできたらという声に応えられたら、取り扱ってくれる場所も増えるでしょうし、今以上に京都醸造のビールを街で見かけるようになると考えました。 

 

もう一つ上げるとすれば、この短い賞味期限のおかげでこれまでたくさんのビールを捨ててきました。数をあげると2020年の7月以降、約9000本のボトルと缶を泣く泣く廃棄しました。そのほとんどは品質に関する情報の不足や賞味期限への注意不足が原因で、まだまだ味は美味しいんだけど、期限が過ぎたことで商品価値はゼロになり、廃棄されました。チームで力を合わせて造り、パッケージされ、運ばれて、店頭で販売されるという流れでたくさんの人の手がかかったビールをやむなく捨てるということは言葉にできないような痛みを感じます。ですので、ビールに合わせた相応しい賞味期限を設けることで廃棄される量も大きく変わってくると考えます。 

 

【賞味期限が変更される商品】 

 

一期一会 製造日より5ヵ月 

一意専心 製造日より4ヵ月 

黒潮の如く 製造日より4ヵ月 

 

【いつから変更される?】 

2021年10月11日に製造した一期一会(#585)よりすべての定番商品が上記の賞味期限に変更されます。 

一期一会(#573、#581)、黒潮の如く(#575)についてはそれ以前に1ヵ月の賞味期限延長を実施していました。 

 

今後のこと 

ひきつづき定番商品のモニタリングは継続し、もし十分に品質を担保できるというデータが揃えば、再度賞味期限の延長をかなえられると思います。その前に、他の限定商品、とくにホップの味わいを特徴とするビールをターゲットにしたいと考えています。ホップの香りや味わいは溶存酸素の影響を最も受けやすいということもあり、まずホッピーなビールが賞味期間いっぱいにベストな状態を保てるように努力していきたいです。その次に、季節限定の気まぐれシリーズや毬子、毬男、週休6日のような登場頻度の高い限定に着手していきたいと思います。